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京都地方裁判所 昭和58年(ワ)9号 判決

原告

廣田邦夫

ほか一名

被告

竹村裕比古

ほか一名

主文

一  被告らは各自各原告に対し金九五万一五六四円及びこれに対する昭和五七年二月四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一八分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し金三、四三四万五二三一円及びこれに対する昭和五七年二月四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの地位

原告らは亡廣田勝彦(死亡時一八歳)の両親である。

2  本件事故の発生

亡勝彦は左記交通事故により事故直後に死亡した。

(一) 発生日時 昭和五七年二月四日午後八時五五分頃

(二) 発生場所 京都市南区久世殿城町五〇〇番地先路上

(国道一七一号線)

(三) 当事者 被告竹村

(京一一す七〇二八号、普通貨物自動車運転、以下加害車という。)

亡勝彦

(京み九〇六一号、自動二輪車運転、以下被害車という。)

高橋貞之

(京五七み五八五〇号、普通乗用自動車運転、以下高橋車という。)

(四) 事故の態様 亡勝彦が被害車を運転して本件事故現場を南進中、左側交差道路から後退してきた被告竹村運転の加害車にはね飛ばされて自車進路の対向車線上を北進中の高橋車と激突した。

3  責任原因

(一) 被告竹村は後方不確認、一且停止違反、安全運転義務違反の過失があつたから、民法七〇九条による責任がある。

(二) 被告三和塗装株式会社(以下被告会社という。)は加害車の保有者であり、運行供用者として自賠法三条による責任がある。

4  損害

原告らは本件事故に関し次のとおり亡勝彦の損害を同人の死亡により相続し、また原告ら固有の損害を被つている。

(一) 治療費 二万六五五〇円 明石病院に対する支払い。

(二) 葬儀関係費用 一五六万五三九四円

葬儀社への支払分 一〇六万一四〇〇円

布施 一五万円

検案書 三万八〇〇〇円

その他諸雑費 三一万五九九四円

(三) 逸失利益 四六六八万七七三七円

亡勝彦は本件事故当時洛陽工業高校三年生であり、かつ株式会社新栄電器製作所に昭和五四年三月から勤務していたが、右高校を卒業すれば勤務に専念することができ順次昇給していくことが確実視されていたので、このような場合逸失利益の算定にあたつては男子労働者の全学歴計、産業計、規模計、平均賃金を逸失利益算定の基礎とすべきである。そして昭和五六年度のそれによれば年収三六三万三四〇〇円であるところ、生活費は亡勝彦が長男であり一家の支柱たるべきことを考えれば四〇パーセントが妥当であるからこれを控除し、なお就労可能年数は本件事故当事一八歳なので就労可能な六七歳まで四九年間でその新ホフマン係数は二四・四一六であるから、亡勝彦の本件事故当時の逸失利益の現価は四六六八万七七三七円となる。

363万3,400×(1-0.4)×24.416=4,668万7,737

(四) 慰藉料 一二〇〇万円

亡勝彦は一八歳で死亡し、かつ原告らの長男として働きながら勉強していた前途有為な青年であつたことからすると亡勝彦の精神的苦痛に対する慰藉料としては一二〇〇万円が相当である。

(五) 物損 三一万七二〇〇円

亡勝彦所有の被害車を修理すれば右金額を用した。なお被害車はその後廃車にした。

(六) 弁護士費用

本件損害賠償は調停不調により本訴に至つたもので、関係者多数でかつ事案複雑であるから弁護士費用としては二〇〇万円が相当である。

(七) 損益相殺

原告らは、被告竹村から香典として一〇万円を受領し、また自賠責保険から二八一五万一六五〇円を受領しているので、これを右金額から控除する。

5  よつて原告らは被告ら各自に対し損害残金合計三四三四万五二三一円及びこれに対する本件事故日である昭和五七年二月四日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。

同2の事実のうち後退してきた被告竹村運転の加害車にはね飛ばされたことを否認し、その余は認める。

同3の各事実は否認する。

本件事故は被告竹村が被告会社に無断で自己の引越のため加害車を運転中に発生したものであるから、被告会社には自賠法三条による責任はない。

同4の事実のうち調停が不調になつたこと及び損益相殺の点は認め、その余は否認する。

三  抗弁

(過失相殺)

本件事故発生については亡勝彦にも時速七〇キロメートルを超える高速度で進行し、かつ前方注視を怠つた過失があるから、これを賠償額の算定にあたつて斟酌し、相当の過失相殺をすべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

証拠関係は本件記録中の書証及び証人等各目録記載のとおりでである。

理由

一  原告らの地位

請求原因1の事実については当事者間に争いがない。

二  本件事故の発生及び被告らの責任

1  請求原因2(一)ないし(四)の事実(但し(四)については後退してきた被告竹村運転の加害車にはね飛ばされたとの点を除く)は当事者間に争いがなく、この事実といずれも成立に争いがない甲第二、第二〇ないし第二三号証、乙第一ないし第九号証、いずれも原告主張の写真であることに争いのない検甲第一ないし第一三号証、被告竹村、取下前の相被告高橋貞之各本人尋問の結果によると、本件事故現場は歩車道があり、歩道を除く道路の幅員約一五・七メートルの南北に通ずる国道一七一号線と同道路に向かい東から西に幅員約二・四メートルの狭い道路とが交わる信号機による交通整理の行われていないT字型交差点内であること、右国道一七一号線の本件事故現場付近は中央線が引かれ片側二車線の交通頻繁な道路であるが、本件事故当時道路両側端で下水道工事に伴う道路工事が行われていて、南行車線(中央寄りの車線の幅約三・三メートル、歩道寄りの車線の幅約四・四メートル)のうち東側歩道(幅約一・三メートル)から約一・四メートルの位置に工事用柵が設けられその間は通行不能であつたこと、被告竹村は、本件事故当時、加害車(車幅一・九九メートル、車長五・九一メートル)を運転して、右交差点の狭い東方道路から国道一七一号線に向かい後退して進出しようとするに際し、国道との出入口北側付近には国道に沿い民家のブロツク塀や比較的高い木等があつて東方道路からの国道北方の交通の状況の確認が困難であつたため、二度停車して下車し国道との出入口付近で国道上の交通の安全を確めた後、加害車運転席に戻り時速約二キロメートルでバツクランプを点燈して後退したところ、南行車線の中央寄りの車線上を進行してくる車両を左側方約七二・八メートル付近に認め、南行車線上に歩道から約四メートル余り進出して停車した瞬間、右車両の左前方の南行車線の歩道寄りの車線上を進行してきていた亡勝彦運転の被害車が自車左後部に衝突し同車を路上に転倒させたこと、被告竹村は衝突して初あて南進してきていた被害車に気付いたこと、一方亡勝彦は、本件事故当時、被害車を運転して、本件事故現場付近の南行車線の歩道寄りの車線上を時速約七〇キロメートルを超える高速度で前照燈を点燈して南進し本件事故現場に差しかかり、国道上に後退進出した加害車から約二〇メートルの位置で右方に道路を変更したが、避けきれず右のように加害車と衝突し、その結果被害車を進路右前方に滑走させて対向車線上に進出させ、折から対向車線上を北進してきた高橋車と衝突し、そのころ脳底骨折により死亡したこと、ところで右交差点の東方道路の北側国道沿いには、右のように民家のブロツク塀や比較的高い木等があるうえ、本件事故現場付近は当時国道両側端に下水道工事に伴う道路工事が施され工事用柵内に工事用資材等が置かれるなどしていてしかも夜間は工事ランプが点燈されているものの街燈もなくて暗く、国道北方からの右交差点東側付近の夜間における車両の確認はかなり困難であつたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によると被告竹村は交通頻繁な国道に後退して進入するに際し、自車の左右後方を注視するのは勿論誘導者をおくなどして進路の安全を確認しながら後退すべき注意義務があるのに、これを怠り、誘導者をおくことなく左方道路の安全確認を十分尽くさないまま、漫然と後退して進行した過失により被害車の発見を看過し本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づく責任がある。

他方右認定の事実によると亡勝彦にも、本件事故発生につき、交通整理が行なわれていず、かつ極めて見通しの悪い交差点を進行するに際し、安全な速度に調節せずに時速七〇キロメートルを超える高速度で進行した過失があつたものというべきである。

そして被告竹村と亡勝彦の本件事故発生についての過失割合は被告竹村が八割、亡勝彦が二割とするのが相当である。

2  次に前記乙第七、第八号証、被告竹村本人及び被告代表者各尋問の結果によると、被告会社は医療器機の塗装を業とする会社であるが、本件事故当時、加害車を所有し、製品の引取や納品等のために使用していたこと、被告竹村は被告会社の従業員であるが、本件事故当時被告会社から加害車の使用を委ねられてキーを管理保管し、自らも業務執行のため日頃加害車を運転していたこと、被告竹村は、本件事故の際、自己の婚約者の引越荷物を運送するため、被告会社に無断で加害車を運転した後、同会社への帰途加害車を運転中本件事故を惹起したことが認められ、被告代表者尋問の結果中右認定に反する部分は直ちに措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によると本件事故は被告竹村の加害車の無断運転によるが、被告会社と被告竹村との雇傭関係、日常の自動車の運転及び管理状況等に照らし、右は客観的外形的には被告会社のためにする運行と認められるから、被告会社は自己のために自動車を運行の用に供する者というべく自賠法三条による責任がある。

三  損害

1  治療費

いずれも成立に争いのない甲第三、第四号証、原告廣田邦夫本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第六号証、同尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告らは、本件事故による亡勝彦の受傷のため医療法人社団愛友会明石病院に対し同人の死亡に至るまでの治療費二万六五五〇円の支出を余儀なくされたことが認められるから、原告らはその二分の一の一万三二七五円ずつの損害を被つたことになる。

2  葬儀関係費

原告廣田邦夫本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七ないし第一二、第一九号証、同尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告らは本件事故による亡勝彦の葬儀関係費用として合計一五六万二三九四円の支出を余儀なくされたことが認められるところ、そのうち本件事故と相当因果関係ある葬儀関係費は七〇万円とするのが相当であるから、原告らはその二分の一の三五万円ずつの損害を被つたことになる。

3  逸失利益

亡勝彦が本件事故当時一八歳であつたことは当事者間に争いがなく、原告廣田邦夫本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証及び同尋問の結果によると、亡勝彦は当時株式会社新栄電器製作所に勤務する傍、洛陽工業高校(定時制)に通学する健康な男性であつて、昭和五六年には同会社より年間給料及び賞与として合計一六八万〇三八二円を得ていたことが認められる。

ところで亡勝彦は本件事故にあわなければ六七歳までの四九年間は稼働し得、その間年間右金額程度の収入を得ることができたであろうと推認でき、これを基礎として右稼働期間を通じて控除すべき相当な生活費を四割とし、中間利息の控除につきホフマン式計算法(新)を用いて死亡時における亡勝彦の逸失利益の現価を算定すると次のとおり二四六一万六九二四円となる。

168万0382×(1-0.4)×24.416=2461万6924

4  慰藉料

亡勝彦が本件事故により多大の精神的苦痛を受けたであろうことは容易に推認できるところであるが、本件事故の態様その他諸般の事情を考慮し、亡勝彦の受くべき慰藉料額は一二〇〇万円をもつて相当と認める。

5  物損

前記甲第二〇号証、乙第一、第四号証、原告主張の写真であることに争いのない検甲第一四号証、原告廣田邦夫本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一三号証及び同尋問の結果によると、亡勝彦は被害車を昭和五五年一二月頃代金約三二万円で購入し所有していたが、被害車は本件事故により大破して修理できず原告らは被害車を廃車としたことが認められる。

ところで被害車の本件事故当時の価額は使用期間等に照らし少なくとも一〇万円を下らなかつたものと推認されるから、亡勝彦は被害車の滅失による損害として一〇万円を被つたものと認められる。

6  相続

原告らが亡勝彦の父母であることは当事者間に争いがないので、原告らは相続により亡勝彦の逸失利益、慰藉料及び物損の各損害賠償請求権の各二分の一にあたる一八三五万八四六二円ずつを承継取得したことが認められる。

7  過失相殺

本件賠償額の算定にあたつては、前記認定の原告ら側の過失を考慮し、原告らの損害に過失相殺をすると、原告らの損害のうち被告らにおいて賠償すべき金額は次のとおり原告らの逸失利益、慰藉料、物損各相続分と治療費、葬儀費用に二割の過失相殺した金額二九九五万四七七九円となるから、原告ら各自の損害はその二分の一である一四九七万七三八九円である。

(2万6550+70万+2461万6924+1200万+10万)×8/10=2995万4779

8  損害の填補

原告らが被告竹村から香典として一〇万円を、自賠責保険から二八一五万一六五〇円を受領していることは当事者間に争いがないので、これを持分比例し二分の一ずつ原告らの各損害に充当すると(原告らの主張の趣旨もこれに悖るものではないと認められる。)、その残額はそれぞれ八五万一五六四円となる。

9  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告らは本件損害賠償事件解決のため、原告訴訟代理人に本件訴訟を委任し、相当額の報酬を支払うことを約したことが認められるところ、そのうち二〇万円(各一〇万円ずつ)が本件事故と相当因果関係にある損害と認める。

四  よつて原告らの本訴請求は被告ら各自に対し各原告が九五万一五六四円及びこれに対する本件事故日である昭和五七年二月四日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して(なお被告らの仮執行免脱の宣言の申立は相当でないからこれを却下する。)、主文のとおり判決する。

(裁判官 小山邦和)

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